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東京高等裁判所 昭和48年(ネ)1327号 判決

控訴人(附帯被控訴人) パール楽器製造株式会社

被控訴人(附帯控訴人) デイヴイス・インポーテイング・カンパニー・リミテツド

主文

原判決中控訴人(附帯被控訴人)敗訴の部分を取り消す。

被控訴人(附帯控訴人)の本訴請求並びに附帯控訴を棄却する。

訴訟費用(附帯控訴費用を含む。)は第一、二審とも被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。

事実

控訴人(附帯被控訴人、以下単に「控訴会社」という。)代理人は、主文と同旨の判決を求め、被控訴人(附帯控訴人、以下単に「被控訴会社」という。)代理人は、控訴棄却の判決を求め、附帯控訴として、「原判決中被控訴会社敗訴の部分を取り消す。控訴会社は被控訴会社に対し金五四四万一、三一〇円(予備的にアメリカ合衆国通貨一万五、〇二二ドル五〇セント)及びこれに対する昭和四三年三月二八日から支払ずみに至るまで年六分の割合いによる金員を支払え。附帯控訴費用は、控訴会社の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求めた。

被控訴会社は、請求原因として、被控訴会社は、楽器類の販売を業とするものであるが、昭和三九年一二月二日、控訴会社との間に、「(1) ベルトーン・デラツクス・スタンダード・ドラム・アウトフイツトNo. S-64(その構成は、別紙目録一記載のとおり。以下単に「Sドラム」という。)一、〇〇〇セツトを、単価、六〇・九九ドル(アメリカ合衆国通貨、以下同じ。)、船積期間、内五〇〇セツトについては昭和四〇年一月一日から同年五月三一日まで、内五〇〇セツトについては同年七月一日から同年一〇月三一日までとし、(2) また、ベルトーン・バレンシア・ドラム・アウトフイツトNo. V-30(その構成は、別紙目録二記載のとおり。以下単に「Vドラム」という。)三〇〇セツトを、単価五〇・六九ドル、船積期間、昭和四〇年七月一日から同年一〇月三一日までとし、いずれも、「若し右各期間内に船積みをしなかつたときは、契約関係清算のための損害賠償として船積遅滞ドラム価格の五〇パーセント相当額を支払う。」約で、控訴会社から買い受ける旨の契約を締結したところ、控訴会社は、Sドラムのうち、一〇〇セツトを昭和四〇年五月二三日に、五〇セツトを同年八月三一日に、五〇セツトを同年九月二〇日に、五〇セツトを同年一〇月三〇日に船積みしたのみで、残りのSドラム七五〇セツトとVドラム三〇〇セツト全部の船積みをしなかつたので、被控訴会社は、右約旨に基づき、控訴会社に対して船積みしなかつた右各ドラムの価格の五〇パーセントに当る合計一、〇八四万九、四一〇円(予備的に三万一三七ドル二五セント)の損害金及びこれに対する支払催告の日の翌日である昭和四三年三月二八日から完済に至るまで商事法定利率年六分の割合いによる遅延損害金の支払いを求めるため本訴に及んだ、と述べ、控訴会社主張の抗弁事実を否認し、

(一)  仮りに、被控訴会社に取消不能信用状を開設すべき義務があるとしても、(1) その義務は、控訴会社において、船積期間内に船積準備を完了したうえで、注文確認書により、被控訴会社に対し船積予定ドラムの品目、数量、金額、船積期日、支払条件等を通知することによつてはじめて発生するものであるところ、本件係争ドラムについては、控訴会社より右の通知がなかつたのであるから、被控訴会社に信用状開設義務の違反はない。(2) そればかりでなく、そもそも、控訴会社が前記各ドラムの船積みを履行しなかつたのは、被控訴会社がそれに対応する信用状を開設しなかつたためではなく、控訴会社においてはじめから船積みを履行する意思がなかつたことによるのであるから、控訴会社は、被控訴会社が信用状を開設しなかつたことを理由として船積み不履行の責任を免かれることは許されない。

(二)  なお、控訴会社の自白の取消しには異議があり、右自白を援用する。

(証拠関係省略)

控訴会社は、請求原因に対する答弁として、

被控訴会社の主張事実のうち、本件契約におけるSドラムの数量が一、〇〇〇セツトであること、本件契約によつて控訴会社が被控訴会社主張のごとき債務不履行の責任を負うことは、いずれも、否認するが、その余の主張事実は認める。なお、控訴会社は、さきに、本件契約におけるSドラムの数量が一、〇〇〇セツトであることを認めたが、該自白は真実に反し且つ錯誤に基づくものであるから、これを取り消す。

(一)  本件契約におけるSドラムの数量は、五〇〇セツトにすぎない。すなわち、昭和三九年一二月二日成立した契約は、Sドラム五〇〇セツトに関するものであつた。ところが、翌三日「被控訴会社よりVドラムも買い受けたい旨の申出があつたところから、右契約にVドラム三〇〇セツトに関する条項を追加する話合いがまとまり、さきの契約書に代えて、右二日付でその旨の契約書が作成されるに至つたのである。したがつて、被控訴会社主張のごとく、Sドラムについて前後二つの契約書記載の数量を併わせた一、〇〇〇セツトの契約が成立したとすることは、誤りであつて、Sドラムの数量は、五〇〇セツトにすぎないのである。

(二)  ところで、もともと、本件契約は、訴外ジヤパン・ミユージツク・サプライ株式会社から控訴会社製のドラムを買い入れてきた被控訴会社が、楽器の急激な需要増加に伴い、自己の希望するドラム数の総枠を確保することを目的として締結されたいわゆる「見込注文契約」(projecting order contract )であつて、それ自体完結した売買契約ではない。すなわち、それは、被控訴会社と右訴外会社並びに右訴外会社と控訴会社との間に従来どおりの取引が行なわれることを当然の前提とするものであるから、そこに予定されている被控訴会社に対する売主は、右訴外会社であつて控訴会社ではない。それ故、控訴会社に対して売主としての責任を問う本件訴えは、被告適格を欠くものというべきである。(2) また、仮りに控訴会社が売主であるとしても、本件契約は、被控訴会社から控訴会社に対し、買付注文書又は電話で、船積みすべきドラムの品目、型式、数量、色、附属品等を特定するほか、船積地、仕向地の指図と代金決済方法をも明示した具体的な注文があり、控訴会社が注文確認書で右の諸条件を受諾してその都度成立する個別的契約で補完されることによつて、はじめて、売買契約として機能し得るものである。しかるに、本件係争ドラムにつき被控訴会社からの具体的注文はなかつたのであるから、控訴会社に債務不履行の責任はない。(3) さらに、本件契約における損害賠償の条項も、前叙のごとく、具体的な個別的契約の成立を当然の前提としているのである。なお、同条項は、債務不履行の場合一律に当該ドラム価格の五〇パーセント相当額の賠償金を支払うことを定めたものではなく、右の額を最高限度として、被控訴会社の現実に蒙つた損害額を賠償する旨を定めたにすぎないものである

と答え、抗弁として、仮りに控訴会社が本件契約によつて被控訴会社主張のごとき義務を負うとしても、

(一)  控訴会社の船積み義務は、買主たる被控訴会社が控訴会社の発送した注文確認書に基づき控訴会社に対し商品代金と船積諸費用を提供するか、少なくとも、それらをカバーする金額の取消不能信用状を開設すべき義務と同時履行の関係にあるところ、被控訴会社において該義務の履行をしていないので、控訴会社が船積義務遅滞の責任を問われる理由はない。

(二)  また、本件契約における損害賠償の条項は、控訴会社に対してのみ一方的な義務を課し、その賠償金額も異常に高額で、しかも、控訴会社の無智に乗じて締結せしめられたものであるから、公序良俗に違反して無効である。

(三)  控訴会社は、後記(四)記載のとおり、最終船積期間経過後の昭和四〇年末ころ、その都度、注文確認書をもつて「このドラムは、本件契約に基づき船積みされるものであり、船積みは、本書発送後遅滞なく行なわれる。」旨を通知して船積みをしたところ、被控訴会社は、それを承諾したうえで、代金を支払つてドラムを受領したのであるから、船積期間及び船積数量に関する従来の契約は、暗黙の合意によつて、「控訴会社において船積準備のでき次第、準備のできた数量だけ、船積みすれば足りる。」旨の契約に変更されたものというべきである。

(四)  控訴会社は、被控訴会社の自認するほか、(1) 昭和四一年一月三一日ころSドラム五〇セツト、(2) 同年二月二八日ころSドラム五〇セツト、(3) 同年三月二八日ころSドラム五〇セツトとVドラム五〇セツト、(4) 同年一一月七日ころSドラムの改良型五〇セツトとベビー・ジユニア・ドラム(BJ-一六B型)六〇セツトを船積みして被控訴会社に引き渡した。

(証拠関係省略)

理由

昭和三九年一二月二日、控訴会社と被控訴会社との間に、Sドラムの数量の点を除き、被控訴会社主張のごとき内容の本件契約(但し、その法的性質ないし法的拘束力については、後に判断することとする。)が成立したこと、控訴会社が本件契約所定のドラムのうち被控訴会社主張の数量を船積みして被控訴会社に引き渡したことは、いずれも、当事者間に争いがない。ところで、控訴会社が昭和四三年八月一四日原審第二回口頭弁論期日において本件契約で定められたSドラムの数量は一、〇〇〇セツトである旨の被控訴会社の主張を認める旨陳述したことは、記録上明らかである。しかし、成立に争いのない甲第一号証の一、二、原審証人高橋人也の証言によつて真正に成立したものと認める乙第二号証、原審証人山本利夫、原審及び当審における証人高橋人也、控訴会社代表者柳沢美津男本人の各供述によれば、昭和三九年一二月二日控訴会社の社長柳沢美津男と被控訴会社の総支配人イー・ワイ・デイビツドは、控訴会社の事務所において、訴外ジヤパン・ミユージツク・サプライ株式会社の社長高橋人也立会いの下に、Sドラム五〇〇セツトの引渡しに関する契約書(甲第一号証の二の契約書)に署名したが、翌三日に至り、デイビツドよりさらにVドラムも買い受けたい旨の申出があつたところから、高橋が右契約書をVドラム三〇〇セツト引渡しに関する条項を加わえた内容の契約書(甲第一号証の一の契約書)に書き変え、柳沢の署名をもらつたうえで、これをデイビツドの許に届けたことを認めることができ、該認定に反する原審及び当審における控訴会社代表者イー・ワイ・デイビツド本人尋問の結果は、前掲各証拠と対比してたやすく措信し難く、他に該認定を左右するに足る証拠はない。それ故、右自白は、真実に吻合しないものであるというべく、したがつてまた、反証のない本件にあつては、控訴会社の錯誤に出たものと認められるので、控訴会社が昭和四四年二月二五日原審第七回口頭弁論期日においてしたこと明らかな右自白の取消しは、有効であるといわなければならない。しかして、前記認定の事実に徴すれば、本件契約で定められたSドラムの数量は、一、〇〇〇セツトではなくして五〇〇セツトにすぎないと認めるのが相当である。

次に、前掲甲第一号証の一によれば、本件契約は、「契約書」(contract)という標題の下に、

「被控訴会社を一方の当事者とし、控訴会社を他方の当事者として、両者間に、一九六四年(昭和三九年)一二月二日、左記のとおり合意(an agreement)が成立した。

(1)  控訴会社は、被控訴会社に対しSドラム五〇〇セツト及びVドラム三〇〇セツトを下記のとおり引き渡すことを合意した。

(a)  Sドラム

構成 別紙目録一記載のとおり

一セツト当り 六〇・〇九ドル

(b)  Vドラム

構成 別紙目録二記載のとおり

一セツト当り 五〇・六九ドル

(2)  控訴会社は、上記ドラムを下記の船積計画に従つて引き渡さなければならない。

Sドラム二五〇セツト-一九六五年(昭和四〇年)一月一日から同年五月三一日まで、

Sドラム二五〇セツト・Vドラム三〇〇セツト-一九六五年(昭和四〇年)六月一日から同年一〇月三一日まで、

(3)  理由のいかんを問わず、控訴会社が上記数量又はその一部の引渡しを怠つた場合には、損害金として、未引渡物品の価格の五〇パーセントを被控訴会社に支払うものとする。」

と表示され、控訴会社の社長柳沢美津男と被控訴会社の総支配人イー・ワイ・デイビツトが署名している。

いま、この契約の法的性質ないしは法的拘束力について判断するのに、被控訴会社は、本件契約がそれ自体完結した売買契約であることを当然の前提として控訴会社に対して本訴請求をしていること、その主張に徴して明らかである。しかし、右の前提に副う旨の原審及び当審における被控訴会社代表者イー・ワイ・デイビツド本人尋問の結果は、後掲各証拠と対比してたやすく措信し難く、他に右の前提を肯認せしめるに足る証拠はなく、却つて、前掲甲第一号証の一、いずれも成立に争いのない甲第六号証の五(原本の存在も含む。乙第一八号証と同一文書)、第八号証の一ないし四、第九号証(乙第二四号証と同一文書)、第一〇号証(乙第二五号証と同一文書)、第一一号証(乙第二六号証と同一文書)、第一二号証(乙第二七号証と同一文書)、第一三号証(乙第二八号証と同一文書)、第一四号証(乙第四一号証と同一文書)、第一五号証(乙第四二号証と同一文書)、第一六ないし第一八号証、第二〇号証、乙第一四ないし第二〇号証、第三〇ないし第三三号証の各一、二、第三四ないし第三六号証の各一、二、第三八号証の一、二、第四三号証、原審証人高橋人也の証言によつて真正に成立したものと認める乙第六ないし第一〇号証、原審証人小林清人、山本利夫、原審及び当審における証人高橋人也、控訴会社代表者柳沢美津男、被控訴会社代表者イー・ワイ・デイビツド(但し、後に記載する措信しない部分を除く。)各本人の供述によれば、次の事実を認めることができる。すなわち、

(1)  控訴会社は、主としてドラム関係の楽器の製造、販売を業とするものであつて、国内向製品と国外向製品とは相半ばする状態であるが、国外向製品は、自ら輸出することなく、専ら、国内業者の注文により製造し、国内業者に売却してきたのであつて、前記訴外ジヤパン・ミユージツク・サプライ株式会社も、控訴会社の国外向製品を購入して輸出する業者の一人であること。また、右訴外会社は、昭和三九年八月設立以来被控訴会社と取引をしており、同訴外会社の社長高橋人也と被控訴会社の総支配人イー・ワイ・デイビツドとは、古くからの識合いで、当時は昵懇の間柄にあつたこと。

(2)  一九六五年(昭和三九年)は、非常な楽器ブームで、供給が需要に追い付かず、製品は奪い合いの状態であり、右訴外会社の被控訴会社に対する控訴会社製ドラムの大幅な計画的輸出を可能ならしめるためには、控訴会社をして被控訴会社の希望する数量のドラムの優先売却方を確約させる必要があつたところから、同年一二月二日、高橋は、折柄来日していたデイビツドを伴つて控訴会社を訪れ、社長の柳沢を説得して被控訴会社らの右要望に応じてもよい旨の諒解を取り付けたので、高橋が英文契約書の例文を参考にして文案を作り、それにデイビツドの口授したペナルテー・クローズ(損害賠償条項)を付け加えて、本件契約書が作成されるに至つたこと。

(3)  本件契約書の作成に当り、被控訴会社から控訴会社に対して直接取引きをしてもらいたい旨の申出はなかつたこと。また、本件契約書には、外国貿易に欠くことのできない代金決済方法に関する取決めの記載がないばかりでなく、輸出用ドラムには、色が三〇種類以上もあつて地域や時期により重要なセールス・ポイントとなるため、ドラムの現実の注文には、必らず、色の指定がなされているのに、本件契約書にはその指定がないこと。なお、本件契約書に記載されている単価は、実際には、控訴会社が直接被控訴会社に売る場合の価格ではなく、右訴外会社が被控訴会社に売る場合の価格であること。

(4)  その後、被控訴会社は、その自認に係るものをも含めて、本件契約に基づき、直接、右訴外会社に対し、

(イ)  一九六五年(昭和四〇年)二月ころ、Sドラム一〇〇セツトを、代金、一セツト六〇・五四ドル(合計六、〇五四・〇〇ドル)、色、アンバー・パール、レツド・スパークル各三〇セツト、ゴールド・スパークル、ブルー・スパークル、ホワイト・スパークル、ブラツク・スパークル各一〇セツト、船積期限、同年五月末日までと指定して、ハイハツト・シンバル・スタンド七〇〇型一五〇個(四五〇・〇〇ドル)、デラツクス・ペダル一〇〇個(三〇〇・〇〇ドル)、スタンダード・ペダル一〇〇個(二一〇・〇〇ドル)、スネア・スタンド用シンバル・ホルダー二五〇個(二四〇・〇〇ドル)、カウベル・Wホルダー二五〇個(二〇〇・〇〇ドル)、ウツド・ブロツク・Wホルダー二五〇個(一九五・〇〇ドル)、ドラマーズ・スローン一〇〇個(三四五・〇〇ドル)、スネア・ドラム・Wプラスチツク・ヘツド一個(八・一〇ドル)、バス・ドラム用シンバル・ホルダー一〇個(無料)、バス・ドラム用トムトム・ホルダー一〇個(無料)とともに注文し、

(ロ)  同月ころ、Sドラム一五〇セツトを、代金、一セツト六〇・五四ドル(合計九、〇八一・〇〇ドル)、色、アンバー・パール、レツド・スパークル各四五セツト、ゴールド・スパークル、ブルー・スパークル、ホワイト・パール、ブラツク・パール各一五セツト、船積期限、同年六月末日までと指定して注文し、

(ハ)  同年一二月初めころ、(a) Sドラム五〇セツトを、代金一セツト六一・五八ドル(合計三、〇七九・〇〇ドル)、色、アンバー、ブルー・ストロー(ニユー)各二〇セツト、ゴールド・スパークル、レツド・スパークル各五セツト、(b) Vドラム五〇セツトを、代金、一セツト四六・二一ドル(合計二、三一〇・五〇ドル)、色、ブラツク・パール、ブルー・パール各二五個、船積期限、一九六六年(昭和四一年)一月末日までと指定して、ニユー・ドラム・ペダル一〇〇個(二〇五・〇〇ドル)、ニユー・ドラマーズ・スローン一〇〇個(三七五・〇〇ドル)、ニユー・タンバリン一〇〇個(二二〇・〇〇ドル)、ニユー・ハイハツト・スタンド一〇〇個(三〇〇・〇〇ドル)、ニユー・ワイヤ・ブラシ二〇〇個(八八・〇〇ドル)、ニユー・カール・マイクロホン・コート五〇〇個(三九〇・〇〇ドル)、スネア・ドラム用シンバル・ホルダー一〇〇個(八三・〇〇ドル)とともに注文し、

(ニ)  同年一二月末ころ、Sドラム五〇セツトを、代金、一セツト六一・五八ドル(合計三、〇七九・〇〇ドル)をニユー・ドラマーズ・スロン一〇〇個(三七五・〇〇ドル)、ニユー・タンバリン一〇〇個(二二〇・〇〇ドル)とともに注文し、

(ホ)  そのころ、Sドラム五〇セツトを、代金、一セツト六一・五八ドル(三、〇七九・〇〇ドル)、色、ブルー・アンバー三〇セツト、アンバー・パール(ストロー)二〇セツトと指定して、スモール・トムトム四八個(三六〇・〇〇ドル)、スネア・スタンド三〇〇個(三九三・〇〇ドル)、スネア・スタンド用シンバル・ホルダー三〇〇個(二八八・〇〇ドル)とともに注文し、

(ヘ)  また、そのころ、Vドラム五〇セツトを、代金、一セツト三三・八一ドル(合計一、六九〇・五〇ドル)、色、アンバー・ストロー、ブルー・アンバー、ブルー・スパークル、ブラツク・パール各一〇セツト、ホワイト・パール、ゴールド・スパークル各五セツトと指定して注文し、

同訴外会社は、その都度、被控訴会社に対して注文に係る商品を船積みして引き渡したこと

を認めるのに十分であり、右認定に牴触する被控訴会社代表者イー・ワイ・デイビツドの供述部分は、前掲その余の証拠と対比してたやすく措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

しかして、これら認定の諸事実を彼此勘案すれば、本件契約は、それ自体完結した売買契約ではなくして、むしろ、控訴会社の主張するごとく、前記訴外会社から控訴会社の製品を買い入れてきた被控訴会社が売手市場のなかで自己の希望するドラム数の総枠を確保することを目的として締結されたいわゆる「見込注文契約」(projecting order contract )であつて、被控訴会社と右訴外会社並びに右訴外会社と控訴会社との間に従来どおりの取引が行なわれることを予定していて、控訴会社から船積みすべきドラムの品目、数量、色、船積期限等を明示した具体的な注文が右訴外会社に対して行なわれることにより、はじめて、売買契約として機能し得るものと解するのが相当である。

ところが、本件係争ドラムにつき、少なくとも、被控訴会社が右訴外会社に対して具体的注文をしたことにつき、主張、立証がないので、被控訴会社の控訴会社に対する本訴請求は、その余の争点について判断を加わえるまでもなく、採用に由ないものといわざるを得ない。

よつて、右と結論を異にする原判決は失当で、本件控訴は理由があるので、原判決中控訴会社敗訴の部分を取り消し、被控訴会社の本訴請求並びに附帯控訴を棄却することとし、訴訟費用(附帯控訴費用を含む。)の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡部吉隆 浅香恒久 中田昭孝)

(別紙) 目録〈省略〉

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